惹かれあう孤独な魂たち。この世の果ての恋物語「ヴァンパイア 」 あらすじと結末




解説

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近年『friends after 3.11【劇場版】』などのドキュメンタリー作品を手掛けてきた岩井俊二監督が、『花とアリス』以来およそ8年ぶりに発表した長編ドラマ。アルツハイマー型認知症を患う母と同居する主人公が、あるウェブサイトに集う若者たちから血を求める衝撃のてん末を映し出す。『フローズン』のケヴィン・ゼガーズら海外キャストに加え、日本からは岩井監督作品には欠かせない蒼井優が参加。ありきたりの吸血鬼ものとは一線を画す、詩的な物語に引き込まれる。
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予告編

あらすじ

とある郊外で待ち合わせた男と女。“プルート” “ジェリーフィッシュ”という明らかな偽名で名乗りあった二人は、男の車で更に郊外へと移動する。自殺サイトで知り合った二人は、この日一緒に自殺するために会ったのだった。
途中で諍いが起きながらも、なんとか穏やかに会話や食事をしながらドライブを続ける二人。話題はやがて自殺の方法に至り、そこで男が提案する。「ひとついい方法が・・・血を抜くんだ」女はそれを了承し、二人は人気の無い倉庫に辿り着く。
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「君が終わったら、僕も死ぬ」と言って、女を大きな冷凍庫の上に寝かせ、慣れた手つきで採血の針を両手足に刺していく男。針から伸びた長い管の先には四つの瓶があり、その栓を開けると女の体から抜けた血が次々と溜まっていった・・・。
その後、男は息を切らせて倉庫から出てくる。そして車のトランクに置いたバッグの中から血の入った瓶を取り出し、興奮気味にその血を飲み始めた。
男の本名はサイモン。アルツハイマーの母親を持つ高校の生物教師であり、そして“ヴァンパイア”でもあった。
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結末

アルツハイマーを患う母親ヘルガ(アマンダ・プラマー)と二人で暮らしているサイモン・ウィリアムズ(ケヴィン・ゼガーズ)。高校で生物学を教えており、生徒の一人・ミナ(蒼井優)が自殺を考えていると知ると、死んではいけないと諭す真面目な教師だ。
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しかしひとたび職を離れると、自殺サイトで血を抜き取る協力者を探し、自殺志願者の間では“ブラッドスティーラー”や“ヴァンパイア”と呼ばれていた。集めた血を飲もうとするが吐いてしまったり、他の殺人犯が女性を殺すところを見て大慌てしたりと、気の弱い面もある。ある日、血を抜き取ることを目的に“ラピスラズリ”という女性に近づくが、集団自殺に巻き込まれそうになる。
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“レディバード”(アデレイド・クレメンス)という女性とかろうじて迷いの森を脱出したサイモンは、道すがら、自分がヴァンパイアだと話す。それからしばらく経って後、再度自殺を願うレディバードから血の提供の申し出を受けるサイモン。同じ頃、教え子のミナも自殺を企てていた。それは、サイモンにとって最も長い一日の始まりだった……。
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自殺をしようとした教え子、ミナ。
それを懸命に止めようとしたサイモン。
説得の時に説明している内容は、
説得力には欠けるし、適切でないようにも感じられる。
けれど、彼の必死さは伝わってくる。
目の前の教え子を助けたいと願っているのは本心からなのだろう。

輸血でミナの体の中にサイモンの血が入っていく。
サイモンの命が、そして助けたいという願いが、
ミナに受け継がれていくことを象徴している。

集団自殺に巻き込まれ、偶然にも助かったレディバードとサイモン。
彼女と話をするうちに不思議な気持ちになってくるサイモン。
多分、サイモンは以前から、
自分がヴァンパイアであることを誰かに告白したかったのだろう。
集団自殺から助かり、共に長い道を歩んだ彼女になら、
そして、彼女から感じられる、彼女の人柄からなら、
告白してもいいと思ったのだろう。



さらに、彼女の人生をも知ることになる。
彼女の自殺を止めたいと願う気持ち。
人は簡単には死んではいけない。
今までは見ず知らずだったから止めずに死なせてあげることができた。
けれど、少しでも相手の人生に触れ合ったのなら、
自殺を見過ごすことは、出来なくなってしまった。

それを理解したレディバード。

あなたの為に生きる、私はあなたのもの。私の血だけを吸って。」

首から血を吸いたい願望を告白し、しかし実行できなかったサイモン。
それは彼らしい優しさ。

人生に寂しい者同士がお互いの痛みを共有し相手を優しく包み込もうとする。
それは彼らの現実の恋愛の始まりなのだろう。
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徐々に変わっていくサイモン。
けれど、現実が彼を裁く日が来てしまった、、、
自分の家に着くと、そこには警察が控えていた。彼は逃げるが、血の足りない彼は捉えられてしまう。
サイモンのやっていることは決して許されない事。
けれど、哀しくて寂しい結末。
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ラスト、唐突にバレリーナを目指していた女の子とのエピソードが描かれる。サイモンはいつものように彼女の自殺幇助をするつもりで話を聞いていると、彼女はこう語る。

 

自分が死ぬ夢って見たことある?
これがわたしの夢なら、わたし死ねない
これはあなたの夢なの?