全員、他人事じゃない。「桐島、部活やめるってよ」 あらすじと完全解説




解説

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早稲田大学在学中に第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウのデビュー作を映画化した青春群像劇。学校一の人気者である男子生徒・桐島が部活をやめたことから、少しずつ校内の微妙な人間関係に波紋が広がっていくさまを描く。学校生活に潜む不穏な空気感を巧みにあぶり出したのは、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の吉田大八監督。クラスでは目立たず地味な存在の主人公に神木隆之介がふんするほか、『告白』の橋本愛、『SAYURI』の大後寿々花らが共演する。
男子バレーボール部のキャプテンだった桐島が部活をやめることをきっかけに、同級生5人の日常に些細な変化が起こる。本作は5編からなるオムニバス形式によっており、全体的なストーリーの起伏よりも、各登場人物の心理を描くことに作品の主眼がある。各登場人物はそれぞれ悩みを抱えており、またそれを隠したまま互いに表面的に交わり、出来事が進む。ある編でも別の編の主人公が出てくるが表面的にしか書かれず、その編の主人公の視点からは、別の編の主人公の内心について何も分からないようになっている。5人の主人公以外の登場人物も、直接には言及されていないが不穏なものを持っているかのようにも書かれる。全5編のうち、第5編にあたる菊池宏樹編のみ、冒頭が分離して全体の頭におかれており、これがストーリーの始まりを告げる役割を果たしている。

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予告編

あらすじ

田舎町の県立高校で映画部に所属する前田涼也(神木隆之介)
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は、クラスの中では静かで目立たない、最下層に位置する存在。監督作品がコンクールで表彰されても、クラスメイトには相手にしてもらえなかった。そんなある日、バレー部のキャプテンを務める桐島が突然部活を辞めたことをきっかけに、各部やクラスの人間関係に徐々に歪みが広がりはじめ、それまで存在していた校内のヒエラルキーが崩壊していく。

※ ヒエラルキー・・・階層制や階級制のことであり、主にピラミッド型の段階的組織構造のこと
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完全解説

この作品で描かれるのは、ごく普通の高校生たちの日常だ。タイトルにも登場する桐島はバレーボール部に所属しており、学校内では“スター”的な存在だ。その桐島が部活をやめるという話が生徒たちの間に広がる。バレーボール部の面々はそれぞれがショックを受ける。一緒に頑張ってバレー部を強くしたいと思っていたキャプテンは桐島の突然の行動に怒りを隠せないし、部員たちも動揺する。桐島の彼女でありながら、何も知らされず、メールなどもスルーされて連絡が途絶えてしまう梨紗
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も動揺しっぱなしだ。さらに桐島の帰りをいつもバスケをしながら待っていた帰宅部の生徒3名、特にその中の元野球部で大親友でもある菊池は、桐島が部活をやめることを自分に何一つ相談してくれなかったことにショックを受ける。
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直接の関係者以外にも、様々な波紋を広げていく

桐島が部活をやめることによる衝撃は、直接関わっている彼らだけでなく、様々な生徒たちに波紋を広げていく。例えばバレーボール部で桐島の代わりにレギュラー入りした風助。背は低いがずっとバレーが好きでコツコツと練習し、誰よりもマジメに取り組んできた男。リベロ(守備専門の選手)としてレギュラー入りした彼だが、残念ながら桐島との力の差は歴然。桐島不在にイライラしたキャプテンにこっぴどくしごかれることになってしまう。もっと動けと叫ぶキャプテンに向かって、「一生懸命やってもこれが限界なんだ」と、自分の実力を認めてしまう風助。
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風助のこの心の叫びは、別の人間にも新たな波を起こしてしまう。それがバドミントン部の宮部実果。
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彼女は桐島の彼女・梨紗とも仲良しの4人組女子の一人でもある。
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彼女はバドミントンの実力者だったが亡くなった姉と同様、バドミントン部に入ったものの、姉のようには上達しないことに絶望を感じ始めている。そして同じ女4人組の一人であり、バドミントン部でもある東原かすみに対しコンプレックスを抱いている。
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そんな実果は以前から部活で黙々と頑張っている風助に自分と同じ匂いを感じたのか、彼のことをとても気にかけていて、今回の風助の限界発言に共感を覚え、実果自身も自分の生き方を深く見つめるようになる。
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桐島の親友・菊池の落ち込みもまたいろんな人に波紋を呼ぶことになる。菊池と一緒にバスケをしながら桐島を待っていた友弘と竜汰という二人の友人に、菊池は「桐島がいないならバスケをして待つ意味がない」とバスケをやめる発言をする。実はこのバスケを結構楽しみにしていた友弘は言い様のない寂しさを感じる。
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さらに、菊池のことが大好きで、彼のバスケしている姿を見るために屋上でサックスの練習をする吹奏楽部の沢島亜矢にも大きな影響を与える。
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彼の姿を見ることができなくなるからだ。それでもどうしても菊池の姿を目で追っていたい彼女は、菊池が付き合っている彼女・沙奈と待ち合わせをした場所がわかれば、あえてその近くでサックスの練習を行うようになる。人は誰かを好きになると、自然と目でその人のことを追ってしまうものだが、亜矢の場合はそれがかなりエスカレート。そんなストーカー的な行為をしていてはいけないことも、自分が吹奏楽部の部長としてしっかりしなければいけないことも十分、亜矢にはわかっている。なんとか菊池への思いに踏ん切りをつけたいと思ってはいるのだ。それでも体が勝手に動いてしまう自分自身に狼狽しているのである。
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そして、亜矢が勝手にあちらこちら演奏の場所を変えることで、さらなる波紋が巻き起こる。それは映画部・前田が現在打ち込んでいるゾンビ映画の撮影に対してだ。顧問の先生から反対されつつも、自分が撮りたいものを撮るのだとゾンビ映画の自主制作に取り組む彼は、撮影の行く先々で亜矢と出会い、彼女に撮影場所を譲ってほしいと懇願することになる。しかしもともと気弱で、他人とコミュニケーションを取るのがヘタな前田にとって、その交渉自体がとても大変なことなのだ。しかし、そうやって苦手な交渉に取り組むうちに、またいろんな出来事(例えば、前から気になっていたバドミントン部の東原かすみと、コアな映画を上演していた映画館で偶然出会ったことなど)を体験していくうちに、ただ自分の主張を押し通すだけでなく相手の気持ちを汲み取る大切さや優しさなど、コミュニケーションの取り方を覚え、ついには亜矢に場所を譲るようにまでなっていく。
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たった一人のささいな言動が世の中を動かす怖さ

といった具合に、一人の男子生徒が部活をやめるという出来事を発端に、ちょっとした心のスレ違いや共感、同情、反発、疑心暗鬼といった日常に潜在していた感情が噴出し、さざ波を立て、最後には大きなうねりになっていくのだ。その様が実に面白く描かれていく。この物語は金曜日から火曜日までのわずか5日間の話なのだが、その中で最初の金曜日だけ視点と時間を微妙にズラしながら、それぞれのキャラクターの紹介も兼ねて4回に分けて描いている。つまり同時刻に起きたそれぞれの出来事を見せられた観客は、一体その裏に何が起きていたのか、まるでミステリーの謎解きのようにそれぞれのキャラクターが抱える事情を把握していくことになるのだ。
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こうして観客はそれぞれの登場人物をよく理解し、次第に広がっていく波紋の先々で起こる出来事を目のあたりにしていくから、よりこの物語がどうなっていくのか、桐島がいなくなった世界(彼は結局、全員と連絡を断ち、なおかつ学校も月曜日は休んでしまう)で何が起きるのか、気になって仕方なくなってしまうというわけ。しかも肝心の桐島は姿を最後まで現さないのだ。知り得ることができるのは、登場人物皆の会話から出てくる桐島の断片的な印象だけ。なんだかよくわからない桐島という人物に、観客は自分も翻弄されていくような錯覚に陥る。
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そんな中から感じるのは人間の心の弱さ。一人の男子生徒のささいな行動が、これほどの大きな波紋を呼んでしまう怖さも感じる。人は他者に様々な影響を与え、同時に他者から影響を受けながら暮らしているのは誰もが承知だ。しかし、たった一人の、だがとても影響力のある生徒の行動が、ここまで影響を与える様をリアルな世界観で具体的に見せられるとドキッとする。そして見ているうちに舞台は高校だけれど、それがこの世界の縮図でもあり、つまり世界とはそんなたった一人の言動でも崩れてしまうほど、実は脆いものであることを自然と自覚させられる。
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また、誰もが生きていく上で必ず悩みを持ち、将来に対しての不安も抱く(もちろんそれは年齢に応じていろいろと変わっていくけれど)。高校生が主人公だけに将来に対する不安感はより顕著に表れてはいるが、人はいくつになってもなんらかの不安は抱えているものだ。



だからこそ、己を強く持たなければと思う。たとえカリスマ的な存在感を持つ桐島が部活をやめると言っても、飲み込まれない自分=自分の頭で考えて行動できる自分、が大事であることを、この映画は示し出す。他人に影響を受けるのは当然。でもそんな中でどう己のアイデンティティを確立していくか。その大切さをこの映画は訴えかけてくるのだ。

桐島だってきっと誰にも知られてはいなかったが、密かにいろいろ悩んでいたのだろう。リーダー格となる人間は、存在感を消して暮らすことはできない。常に何をしても目立ってしまうからだ。だから、桐島は突然に部活をやめ、なおかつ誰とも連絡をせずに引きこもる方法を選んだのかもしれない。自分の存在を消すことで、逆に自分だけのアイデンティティを確立したかったのかもしれない。

映画 「桐島、部活やめるってよ」 の内容についてQ&A

Q:映画 「桐島、部活やめるってよ」 の内容について(ネタバレあり)

映画 「桐島、部活やめるってよ」

の最後の方で、人が屋上から飛び降りた様に見えるシーンがありましたが、あれは実際には桐島くんではなく誰だったのでしょうか?映画部の誰かですか?
私は鑑賞中、飛び降りた様にみえたのは桐島くんだけど、誰かに帰った方がいいと促され、誰にも見つからないように学校を離れたのかと思いながら見ていたんですが・・・最終的に良く分かりませんでした。

そこはあんまり重要じゃないのかもしれませんが、原作の小説も読んだことないので気になります。
分かる方いたら、教えてください。
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A:結局は推測にしかならないですが、私は桐島だと思います。
ただ、桐島であってもなくてもこの作品の成否に影響はないとは思いますが。

なぜ桐島が突然部活をやめるのかを友達たちが聞きたいのに学校に来なくなり連絡も付かなくて、それが出来ませんでした。
そして会えない事が、才能のある桐島でさえ部活をやめるほどの挫折をしているのに、自分達はこのままで大丈夫なんだろうかという不安を増大させて桐島を必死に探す理由になっていたと思っています。

そして観客にも見せないのは、桐島に会えないという不安感を観客にも伝播させるのが狙いじゃないかと思ってます。
だから屋上にいたのが桐島かどうかを曖昧にするのも観客への不安を演出する為じゃないかと思います。
なのでそのままならその生徒は桐島かどうか分からないという事になるはずですが、多分その生徒と思われる人物がもう一度出てきています。

それは直後の、屋上に上がる階段の所で、屋上で撮影しようとする前田涼也(神木隆之介)と行き会っています。
で、行き過ぎる時に前田が相手の生徒を振り返り立ち止まってしげしげと見ていました。
屋上にいた生徒とこの行き会った生徒が時間的な関係からおそらく同一人物と思われ、敢えて前田にしげしげ見させるという相手の生徒を強調する演出をしている以上、この生徒が桐島だと観客に見せているんだと思います。(そうじゃないとこの演出の意味が無くなってしまうので)

屋上で生徒が桐島の騒ぎをしている時に前田が階段で行き会った事を言っていませんでしたが、それは前田が日ごろから他の生徒から相手にされておらず、前田を無視するように誰も桐島と会ったかどうかを聞かなかったから。
さらに日ごろから相手にされていない前田にとっては、学校の有名人の桐島の失踪なんぞ俺達の映画製作には何の関係もないとでもいうように騒ぎをキョトンと聞いている感じでしたので。
普段相手にしてこなかったのが裏目に出たという感じでしょうか。

あれだけ騒いだ桐島を出さないというのも観客への裏切りみたいな感じなので、ちょっとした遊び心のクイズの答合わせみたいな意味でしょうか。
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YAHOO知恵袋より