解説
宮崎駿監督がゼロ戦の設計者・堀越二郎と作家の堀辰雄をモデルに、1930年代の日本で飛行機作りに情熱を傾けた青年の姿を描くアニメ。美しい飛行機を製作したいという夢を抱く青年が成し遂げたゼロ戦の誕生、そして青年と少女との出会いと別れをつづる。主人公の声には『エヴァンゲリオン』シリーズなどの庵野秀明監督を抜てき。ほかに、瀧本美織や西島秀俊、野村萬斎などが声優として参加する。希代の飛行機を作った青年の生きざまと共に、大正から昭和の社会の様子や日本の原風景にも注目。
あらすじ
大正から昭和にかけての日本。戦争や大震災、世界恐慌による不景気により、世間は閉塞感に覆われていた。航空機の設計者である堀越二郎はイタリア人飛行機製作者カプローニを尊敬し、いつか美しい飛行機を作り上げたいという野心を抱いていた。
関東大震災のさなか汽車で出会った菜穂子とある日再会。二人は恋に落ちるが、菜穂子が結核にかかってしまう。
結末
医者として定期的に菜穂子を診ていた加代が、バスの中から歩き去る菜穂子の姿を見つける。黒川夫人とともにあわただしく離れの部屋に向かうが、そこには菜穂子の荷物はなにひとつなく、きれいに整頓され、机の上に手紙がきっちり三通置かれていた。加代は自分宛の手紙を開封する。「お姉さん!菜穂子さん山へ帰るって!呼び戻してきます!」しかし黒川夫人は「だめよ!追ってはなりません…菜穂子さんが汽車に乗るまで、そっとしておきましょう。」
手紙を握りしめたままで外へ飛び出す加代。しかし立ち止まり、体を震わせて号泣する。
田園を走り抜ける列車の座席に一人座る菜穂子。
彼女は死ぬために山へ帰るのだ。
後のゼロ戦の原型となる二郎の九試は、その美しい姿で空を飛び回っていた。テスト飛行は大成功だった。速度は240ノット(約440キロ)に達していた。驚きと歓喜に包まれる服部、黒川、三菱の社員たち。
しかし二郎はその時、まったく別の場所に立った風を感じていた。
パイロットが二郎に握手を求めてきた。「すばらしい飛行機です。ありがとう」
日本、敗戦する
1945年(昭和20年)空を無数のB-29爆撃機が覆っていた。燃えさかる日本の都市。日本は戦争に負けたのだ。
二郎は夢の中にいた。無数の航空機の残骸の中を歩いていた。
草原に出た。カプローニが立って二郎を出迎えた。
二郎「ここは最初に僕らが会った草原ですね」カプローニ「夢の王国だ…」
二郎「地獄かと思った」カプローニ「似たようなものだな」
カプローニは問う「君の10年はどうだったかね?」
「力は尽くしました…終わりはズタズタでしたが」「国を滅ぼしたんだからなぁ…」
その時、草原の向こうから美しい飛行機の編隊が通り抜けるてゆく「あれかね…君のゼロは」
パイロットたちが次々に敬礼していく。白い機体が空を覆い尽くす。
カプローニ「美しいな。いい仕事だ」二郎「一機も戻ってきませんでした…」
カプローニ「生きて帰りし者なし…飛行機は美しくも呪われた夢だ。大空はみな飲み込んでしまう…」
そしてカプローニが、ずっとここで二郎を待っていた、という人を指さす。
遠くに、白いパラソルを持った女性が立っている。ゆっくりと歩いてくる。
菜穂子だった。
「あなた…生きて… 」微笑む菜穂子。
その時、風が立った。
菜穂子はまるで風に溶けるように消えさっていく。
二郎「ありがとう…ありがとう…」声を震わせて、菜穂子に最後の別れを告げる。
行ってしまった。今度こそ…本当に。
カプローニ
「君は生きねばならん…
その前に、寄っていかないか?…いいワインがあるんだ」
夢の中の草原を歩き出す二郎とカプローニ。